『アウターリミッツ』第3話

Mazudai2005-04-10

「ゆがめられた世界統一」(原題:"The Architects Of Fear")
SFホラーの歴史は、冷戦構造の背景を抜きには語れない。1957年10月4日、ソビエト連邦が人類初の人工衛星スプートニクス1号の打ち上げに成功した。征宙権のアドバンスは共産主義者にあり、大多数のアメリカ人(と西欧諸国人)には、宇宙からの脅威とは、ほぼ同じ意味合いとして、共産主義の脅威と認識されていた。50年代以降のSF・ホラー映画で活躍した数多の宇宙人たちは実は、ロシア人や中国人のメタファだったのである。この「ゆがめられた世界統一」もまた、そうした世相を色濃く反映して反映している作品だ。
本編では、大国の対立の構図を崩す手段として、新たな仮想的「宇宙人」を設定することを、平和を願う科学者たちが考え付いている。世界平和の為なら、一人の犠牲は許されるであろうという傲慢な思想と、その「高邁な理念」の為に踏みにじられる個人の自由と幸せという、重いテーマのストーリーとして知られているのが本エピソードである。
さて実際に見てみるとその重さの演出は、あらすじから得た想像をはるかに越えるものだった。人間を改造して捏造されたエタ星人は、じつは、地球を訪れた(おそらく不慮の事故と思われる)本物のエタ星人の子供をモデルに作られているであるとか、エタ星人に改造される主人公アレンの妻は妊娠中であるとか(子供ができないと諦めていたから、宇宙人改造計画を了承しているのだ!)、夫婦の間には、テレパシーを想起させる精神的な繋がりがあるとか。1時間の放映枠で製作されているだけに、人間描写のきめ細かさには驚かされる。
また一方で、SFホラーとしての(「トワイライトゾーン」へのカウンターとして、「怪獣モノ」を選択した)面目も、立派に保っている。エタ星人のグロテスクなデザインはつとに有名だが、この全身像というのは殆ど知られていない。ドラマ本編でも、全身像は殆ど登場しない。だが、顔、手、足と、部位ごとのアップは象徴的に計算されて見せられている。本DVDの特典映像として、エタ星人の全身像や、着ぐるみの中の人の状態を撮影したスナップが入っているのだが、エタ星人の足は逆関節でついており、ナックルウォークで歩くのだね。中の人が持つ松葉杖が腕の中に仕込まれているのだ。
そして、本編中に一瞬だけ姿を見せるエタ星人の子供は、サルに着ぐるみを着せている。不自然な動きを余儀なくされる逆関節の脚というアイデアを、ナックルウォークで解決し、さらに不自然に見せないための、万全の配慮がなされているのだ。
また、主人公が徐々に宇宙人に変えられていくプロセスも、良くできた特殊メイクと演出プランに支えられ、「とんでも」な発想の笑いに流れることなく、テーマを明瞭にする事に一役買っている。モンスターと特殊撮影を主軸におきながら、あくまで作劇上の手段として、そしてテーマ性ともピッタリ一致している、SF特撮ドラマの鑑のような傑作であった。