『ベルヴィル・ランデヴー』

テアトルタイムズスクウェアにて。初めての劇場だが、段差の大きいシート配列と、最前列でも見やすいスクリーンの高め配置など流石に新しい劇場だけあって、鑑賞の為の環境は抜群。シートの座り心地や肘掛の機能性などは、バージンやワーナーマイカル*1に劣るかもだが、掛かるプログラムのチョイスからすると、同系統の他劇場*2より抜きん出ていると思う。
全編セリフらしいセリフは殆どない、その分絵の説得力で見せるストロングスタイルのアニメ映画。ヨーロッパ独特の絵本調の絵柄だが、ある種の悪意すら感じられるデフォルメをされた個性的なキャラクターデザイン*3は、好みの分かれるところかもしれない。
織り成すギャグは、カートゥーンアニメのお約束の集大成なのだが、いやこれも、妙なところでリアリティがありそこが「毒」として明確なアクセントになっている。例えば、犬のブルーノのブクブクの腹に乳首が6つ描いてある事。
仔犬のころに「ブルーノ」と男性名をつけられてしまったが実はメス犬だということが、このワンカットで発覚する。以降、ブルーノがメスであることを明示/暗示する描写はビタ一無い。老犬ブルーノは「犬」として、カートゥーンならではの過酷な大活躍を強いられることになるのだ。男になら許される(のか?)それはそれは酷い*4扱いを。
主人公のスーザ婆ちゃんの靴は片方だけ極端な上げ底になっている描写も秀逸だ。物語冒頭、既にしてスーザ婆ちゃん老いている。その15〜20年後の物語の本筋の設定において、彼女の時間経過を萎えた足を補う上げ底靴で暗示しているのだ。そして、この上げ底靴は重要な複線にもなっているのだ。いやまぁ、そうくるか!という、俺的には拍手喝采の演出であったよ。ベルヴィル・ランデブー
スーザ婆ちゃんを助ける、「トリプレット」も素晴らしい。一斉を風靡した往年の歌姫たちの生活は、恵まれたものではない。だが、老いを享受した者の品格と強さが描かれている。品格は、ボードビリアンに転向して燻し銀の音楽芸をレストランで披露するところであろう。その前夜、フェチ老人かと思わせる家電製品や古新聞への偏愛が、芸人にとって命の次に大切な舞台道具であったことが、レストランでのショータイムで明らかにされる。と同時に、三人の婆さんが、スーザ婆ちゃんとの出会いから事件に巻き込まれるプロセスを、自然かつ運命的に演出しているのだ。『デリカテッセン』(1991年 フランス 監督:ジュネ&キャロ)とか好きな人には堪えられない面白映画である。



*1:鑑賞環境は最高だが、ロケーションが悪いことと、ここで掛かる映画はあんまり見たくないのが多いのだ、俺は。

*2:恵比寿ガーデンシネマ(笑)とか

*3:主人公のマダムイ・スーザ以外、みんな悪役ヅラってのはどうか?いや、俺は大好きだが。

*4:だから抱腹絶倒。