『プルートゥ』1巻 浦沢 直樹

すっかりサイコサスペンスの巨匠になってしまった浦沢直樹。この種の物語はまとめ読みに限るのだが、ついついバラバラと買ってしまう(苦笑)。無論、ビッグコミックの連載も毎回抑えてしまうのだ....続きが気になって身悶えすることは必至なのにな。
大手塚の看板作品の一つである『鉄腕アトム』の中でも、最も人気と知名度が高い「地上最大のロボット」。あまりに有名であるが故、ストーリーの展開や顛末、そしてメッセージ性まで知れ渡っている作品を、ミステリ色の濃いサスペンスに仕立ててリメイクするというのは、無謀ともいえる冒険である。種も仕掛けも明らかなマジックを演じるようなものだ。だが、グイグイと読ませるのだなぁ。しかも物語中盤でリタイアするゲジヒトを主人公にするという発想にシビれた。
原作の持つニヒリズム*1を、かなり大胆にアレンジしている事をチラチラと見せながら、浦沢オリジナルの謎、「ボラー調査団のメンバーを手に掛けているのは、人間かロボットか?」を畳み掛ける。これは、手塚が『鉄腕アトム』を通して描いた、「ロボットと人間の差異」つまり「差別はなくならないのか?」というエクスキューズを、「ロボットは人間を殺せるか?」というダークかつ現代的なアプローチをもって再考しようという意図が感じられる。
プルートゥ』に登場するロボット達は感情も情操も豊かであり、「地上最大のロボット」の六人に数えられるゲジヒト、ブランドーに至っては、見た目は全く人間と変わりが無い。そういう意味では、ロボットの壁を自覚しているゲジヒトは、最もロボットらしい存在と言えるかもしれない。そんなゲジヒトが日本を訪れ、アトムと邂逅するところで一巻目は幕を閉じる。
二巻目以降の収録になる既発表のエピソードだけでも、アトムは実に人間臭い...性能面ではゲジヒトを凌駕しているにも関わらずだ。このコンビが地上最大のロボットとボラー調査団メンバーを襲う、二重連続殺人に挑んでいく事になるのだが....実は『鋼鉄都市』のパスティーシュを狙っているのではないか?と邪推してみたくなる。
今後登場するイプシロンのキャラクター造詣や、ウランとプルートゥの心の交流*2、100万馬力になるアトムの葛藤などどう描かれるのか?が激しく気になる。この辺、なに言っているか判らない人は、「地上最大のロボット」も収録した豪華版『プルートゥ』を買って読むべし。





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*1:手塚節...つまり人間主義炸裂なのだがな

*2:手塚版を今読み直すと、この件は『レオン』と全く同じでおったまげた。評判のあまり宜しくなかった今世紀のアニメ版では、この点をフォーカスしすぎて頂けなかった。