久世光彦氏、逝く

今朝TVで、みのの番組で知った。謹んでご冥福をお祈りします。
みののラジオ番組に先週だかにゲストとして出演し、「TVは消えモノだから(後世に残るとか芸術性とかは関係ない)」との発言をしていたとのこと。TV黎明期から生放送のドラマ演出などを手がけたキャリアならではの重みのある言葉である。
以前にも書いたことがあるが、ホームドラマに右脳ギャグの概念を持ち込み成功した強固な演出力は、極めて鋭敏なセンスの産物であろうと思っていたのだが、実際、蜷川幸雄ばりの*1完璧主義者で、現場では恐れられていたとのコメントが、「時間ですよ!」や「寺内貫太郎一家」の出演者から語られていた。
市川崑監督『黒い十人の女』において、船越英二が好演した、どうにも憎めないプレイボーイのTVディレクターは、久世氏がモデルであると言われている。久世氏の短編小説集『恐ろしい絵』*2を読んだことがあるが、主人公「私」のちょっとダークな女性遍歴を、絵画をテーマにして描いていた。センスといい、描写といい、バリエーションに富んだお遊びっぷりといい、『黒い十人の女』のモデル説はガセではないように思えてしまう。この小説で、「姉が血を吐く 妹は火吐く」で始まる不思議な詩が、「トミノの地獄」という題で、西条八十の手になるものと知ったのだった。
妙なところで俺個人に多大な影響を及ぼした、名演出家のご冥福を、心からお祈りしたい。

久世さん告別式 今日子最後の別れ
2006年03月08日(水) スポーツニッポン

 虚血性心不全で今月2日に亡くなった演出家で作家の久世光彦さん(享年70)の告別式が7日、東京・護国寺でしめやかに営まれた。約500人が参列。久世さんが晩年もっともかわいがった女優の1人、小泉今日子(40)は涙をぬぐいながら恩師を見送った。また、森繁久弥(92)が盟友にあてて「私はすでに言葉も失って 失ってただ右往左往するばかりです」とつづった最後の手紙が代読され、参列者の涙を誘った。

 6日の通夜には仕事で駆けつけられなかった小泉は、斎場の片隅で静かに久世さんを見送った。

 報道陣を避け、裏から会場入り。出棺の際には、こらえきれない涙を白いハンカチで何度もぬぐった。最後まで、誰よりも長く手を合わせて見送り、これまでの感謝を伝えているようにみえた。

 小泉にとっては、01年に53歳で亡くなった映画監督の相米慎二さんと並び、女優として鍛え上げてくれた恩師。10代のころから演出作品に名を連ね、今秋に公開されるオムニバス映画「ユメ十夜」でも、久世さん脚本の1作に主演している。昨年末には久世さんが撮影現場を訪れて見守っていた。また、小泉が新聞紙上で掲載した書評には、必ず直筆の感想が届いた。

 関係者によると、悲報を聞いた後、「言葉にならないな…」とポツリともらしたという。この日も取材陣には何も語らず、斎場を後にした。

 葬儀では、通夜に訪れた森繁の“弔辞”を司会者が代読した。「悲しいな」とガックリ肩を落としていた森繁が、通夜終了後に久世さんや残された遺族に伝えきれなかった思いを手紙にしたため、葬儀当日に代理人が届けた。

 また、参列した堺正章(59)は「怖い人がいなくなっちゃった。ああいう人にはもう巡り合えないだろう」と肩を落とした。樹木希林(63)は親族とともに、荼毘(だび)に付される会場まで付き添った。

 “向田邦子ドラマ”のテーマ曲が流れる中、多くの俳優、女優が詰めかけた最後のお別れ。数々の名ホームドラマを残し、多くの名優を育てた「希代の演出家」の天国への旅立ちは、久世さん自身が“最後の作品”を演出しているようだった。


*1:というと失礼だね、久世氏の方が先輩である。

*2:随分昔に読んだので、タイトル間違っているかも。たしか、文春文庫刊だったかと