『阿修羅城の瞳』

Mazudai2005-04-16


これから観ますよ!
かなり早いくいぐらいに到着して、コーヒーでも飲んで、のんびりしてから観ようと思っていたのに、GW前倒しのジャリ映画のおかげで、チケットカウンター激混みですよ、MOVIXさいたま。
シネコンはゆったりと観られるからいいけど、着席するまでの貧乏臭さがいやだ。
500人のキャパに観客20人ほど。まぁ期待通りの環境だったわけだが、これではイカン!
これはオススメですぞ。

本作は、劇団☆新感線の同名舞台劇を脚色し映画化したもの。
文化文政の江戸の町は「鬼」が跳梁する魔都と化していた。「鬼」たちを滅する為に組織された裏奉行「鬼御門」の副長だった病葉出門(市川染五郎)は、ある事から鬼御門の職を辞し、中村座の看板役者として人気を博していた。白川夜船と洒落込んだある日、取り方に追われる忍装束の美少女と出会う。彼女こそ江戸の街を騒がす義賊「闇椿」の頭領、つばき(宮沢りえ)であった。
一方、鬼どもの不穏な動きを察知した鬼御門筆頭国成(内藤剛志)は、鬼の頭領美惨(樋口加奈子)を追い詰め、鬼の王阿修羅の復活が近づいていることを知る。だが、阿修羅の力を我が物にしようと企む阿部邪空(渡部篤朗)は国成を亡き者とし、美惨と結託するのであった。
「最も強き漢が阿修羅を目覚めさせる」という美惨の言葉に、野心と自己陶酔をたぎらせた邪空は、阿修羅復活の鍵を握るつばきを拉致しようとするが、つばきが逃げ込んだ先は、舞台稽古の最中の中村座。元の同僚同士がつばきを巡って合間見えることになった。かつての「鬼殺し」出門と、鬼に魂を売った邪空、鬼の世を来らしめんと画策する美惨、三者の思惑が、失われた記憶を求め流浪するつばき中心に、世界に破滅を齎す渦を巻き始めた。

舞台劇がベースなだけに、CGも含めた美術の力の入れ具合やカメラワークのケレンが素晴らしい。そしてそれらは、宮沢りえ演じるつばきの艶に収斂されているのだ。三十路を過ぎて久しい彼女だが、十六七の小娘の愛らしさからサロメの如き激しい女に至る変遷を見事に演じている。適当に美少女アイドルに毛が生えたのを持ってこなかったキャスティングが千両であろう。【以下、ネタバレ】

阿修羅と言えば興福寺の阿修羅像であったり、萩尾望都百億の昼と千億の夜』の阿修羅王を連想するが、阿修羅の本質。。。全てを破壊する事に躊躇しないイノセンスは、肢体の線の細さ無くしては表現できないであろう。そういう意味で、宮沢りえのキャスティングは必然であったと言えるかもしれない。
阿修羅の証である痣は、つばきの真っ白な肩甲骨に浮き出る。盗賊として活躍するが故に、中性的な魅力を持つ「美少女」つばきが肌を顕わにするのは肩だけだ。触れられることで激痛を伴う阿修羅の証は、女の兆しの隠喩であることは言うまでもない。が故に、華奢な肩が着物から覘くシーンの数々は、実に実に艶かしいのだ。
阿修羅の成長プロセスも、なんともエロティックである。幼児の形態で人の世に現れ、人間に殺されることで娘の姿に転生する。そしてその娘が真に男を愛し、愛された時、阿修羅が覚醒するのだ。劇中の美惨のセリフを引用・加筆すると、「恐怖と憎しみうを吸って娘となり」、情欲を得て女と成った時、阿修羅が誕生するのである。鬼気孕む激しいエロスとしての女性観をスタートとして、破滅の恋の成就を願う男のロマン。あぁ、燃えに燃えますな。
そしてクライマックス。出門は、最後の決戦を「これは秘め事だ」と断じ、刀の鞘を四世鶴屋南北(小日向文世)に託して、天空に去来した逆しまの「阿修羅城」に挑む。その言葉通りに、阿修羅≒つばきと出門の激闘は、互いに食い尽くそうとする激しいセックスを想起させる。剣を結び、身体を交錯させて、めまぐるしく「体位」を変える二人の交わり。阿修羅を後ろから抱きしめるように締め上げる出門の太刀を、素手で握り締めてゆっくりと掌を動かしながら阿修羅は言う。「なるほど。。。よく切れる。。。。」苦痛に顔を歪める出門の腹には、逆手に持った阿修羅の剣が突き刺さっている。抱擁を振りほどいて対峙し、嫣然と微笑む阿修羅の左掌はかっと開かれ、紫色の血が滴り落ちる。そしてその右肩は、身体を振りほどく一瞬に、出門の刃に切り裂かれている。。。。あぁ、もう、実に美しい。


/ 松竹(2005/10/29)
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互いに恋焦がれながら、互いが己がものにならない事を知っている二人は、いっそ相手を殺めてしまおうと、刃で愛撫しあう。この戦いの結末には、世界や、それを構成する彼らの近しい人々の行く末なんぞ、これっぽっちも配慮されていない。これぞ、破滅の美学!究極のエロス!!

さて、この「阿修羅城の瞳」という物語って、映画『スペースバンパイア』にインスパイアされてるのではなかろうか?と、ふっと思ってしまった。元の舞台劇を観ていないんではあるがな。